香川県琴平町の名物として知られる灸まん(きゅうまん)は、その名の通り、お灸(もぐさ)の形をした焼きまんじゅう。頂上部が丸く盛り上がった、やや円錐形に近い形をした饅頭で、金刀比羅宮(こんぴらさん)の参道に本店を置く「灸まん本舗 石段や」オリジナルの銘菓だ。第24回全国菓子大博覧会で最高賞受賞の由緒正しい焼き菓子で、小麦粉生地を焼き上げたしっとりとした皮に卵の風味が香る黄身餡が包まれる。控えめな甘さで上品な味わいと姿から、もてなしの席にも選ばれる名品となっている。
石段やは、元は1765年(明和2年)に「麻田屋久八」として金刀比羅宮参道の石段に軒を連ねた旅籠であった。天保年間に、江戸の小金井小次郎という侠客がこの旅籠に泊まり、麻田屋の女中衆に当時麻田屋の名物として知れ渡っていた「金毘羅灸」を据えるよう所望した。小金井は非常に美男子だったため灸を据えるのに女中衆で取り合いになったという。結局灸を据えることになったある女中が特別柔らかい灸を据えたため、小金井は「こいつは甘めぇお灸だ」とは言ったものの、非常にこの灸が気に入ったらしく、以後「金毘羅灸」はますます評判を取ったという。
麻田屋の六代目の主人が屋号を「石段や」とし、旅籠より茶店に商売替えをする際、この逸話にとりお灸の形をした饅頭を創始したという。今では、金刀比羅宮参詣の土産の代表格であり、また名物かまどなどと並び香川県を代表する土産菓子でもある。現在でも石段や本店の建物は金刀比羅宮参道において最も古い建築の一つである。